「愚行録」のネタバレあらすじと結末の感想

愚行録の紹介:2017年2月18日公開の日本映画。第135回直木賞候補にもなった貫井徳郎の同名小説を、妻夫木聡主演で映画化したミステリアスな人間ドラマ。育児放棄をした女性を妹に持つ週刊誌記者の兄が、一家惨殺事件の真相を探る過程で、事件にかかわる人々の本性が明らかになっていく…。

予告動画

愚行録の主な出演者

田中武志(妻夫木聡)、田中光子(満島ひかり)、田向浩樹(小出恵介)、宮村淳子(臼田あさ美)、稲村恵美(市川由衣)、夏原友季恵(松本若菜)、尾形孝之(中村倫也)、渡辺正人(眞島秀和)、橘美紗子(濱田マリ)、杉田茂夫(平田満)

愚行録のネタバレあらすじ

簡単なあらすじ

①『週刊テラス』の記者・田中は約1年前に起きた田向家一家殺人事件の、後追い取材を願い出る。田中の妹・光子が育児放棄で逮捕されたと知る上司は容認。田向夫妻の関係者に聞き込みをかけることで、夫・浩樹、妻・友季恵の過去が浮き彫りに。 ②犯人は幼少期に父から性的虐待を受けていた田中の妹・光子、その可能性を指摘した宮村淳子は田中に殺害された。光子の娘は死ぬが、その父親は田中(兄)だった。

【起】- 愚行録のあらすじ1

〔田中武志の章〕
早朝のバスは混雑しており、乗客が多くいました。その中に、疲れた中年男性・田中武志もおり、座席に座っています。
立ったままの老女を見かねて、別の初老男性が田中に「席、譲ってあげなさいよ」と声をかけました。
田中は老女に席を譲りますが、左足を庇いバスの振動で転びます。
バス停で降りた田中は、左足をひきずっていました。
障害者に席を譲らせたと気付いた初老男性と老女は、田中を見て気まずい表情を浮かべます。
ところが…バスが立ち去るのを見計らって、田中は歩行を戻しました。田中は足が悪いわけではなく、そうやって席を譲るよう仕向けた相手に、意趣返しをしたかっただけなのです。

警視庁城北警察署。
拘留中の妹・光子に田中が面会に行くと、光子は喜びました。「半年ぶりくらい? あれ、痩せた?」と気さくに声をかけてきます。
弁護士の橘美紗子の立ち合いの下、田中と光子は面会していました。光子は「すぐに戻るから」と言います。

光子は3歳の娘・千尋(ちひろ)の育児放棄の疑いで、逮捕されていました。千尋は3歳児でありながら保護された時には1歳児並みの体重しかなく、極度の栄養失調にありました。
保護された千尋は現在もなお意識が戻らず、もし戻ったとしても脳に重い障害が残るそうです。
弁護士の美紗子は「起訴の可能性が高い」と言った上で、光子の精神鑑定を田中に切り出しました。
娘の千尋のことにしても自分の件にしても、光子はどこか「他人事(ひとごと)のように思っている」節があると、美紗子は感じていました。やってみるだけの価値はあると言います。

独居房で眠る光子に、無数の手が群がります(これ、後にも出てくる。その時に意味を説明する)。

田中は週刊誌『週刊テラス』の雑誌記者でした。
編集部の上司・丸山に、約1年前に起きた「田向(たこう)家一家殺害事件」の特集記事を書かせてくれと頼みます。
編集部の岩田は別の事件を取り上げろと言いますが、丸山は許可しました。
田中の妹が育児放棄で逮捕されたことを知る丸山は、岩田に「何かやってないと気が持たないのだろう」と言います。

〔田向家の章〕
田中はまず、事件のあった田向家に向かいました。
1年が経過しても、無人のその家はまだありました。両隣は空き地になっています。
今から11か月前、その家で一家3人が殺されるという事件がありました。
被害者は夫・田向浩樹(37歳)、妻・友季恵(旧姓・夏原)(36歳)と娘の3人で、現在もなお犯人は見つかっておりません。
1階で夫の遺体が、2階寝室で妻と娘の遺体が発見されました。
凶器は包丁で、遺体は何度も刺された痕があることから、動機は怨恨ではないかとの見込みがなされていますが、警察の捜査に進展はありません。
犯人は犯行後、シャワーを浴びて全身の血を落としてから、現場を後にしていました。

家の外観を撮影する田中を見て、近くを通りかかった中年女性が声をかけてきました。
「もう1年?」と言った中年女性は、事件を恐れて近所一帯が引っ越して行ったことを話します。
「あんな、感じのいい家族を殺すなんてねえ」と発言する女性は、田向一家とあまり親しそうではありませんでした。

〔渡辺正人の章…夫・浩樹の会社同僚〕
田中はまず、夫・浩樹の会社の同僚の、渡辺正人に話を聞きます。
正人と浩樹は同じ稲大でしたが、大学時代に交流はなく、入社試験の時からの付き合いだそうです。
浩樹は大手の不動産会社に勤務していました。
「この業界を受ける者は、デベロッパー(開発業者)を目指すんですよ」と答える正人は、入社後に浩樹が住宅販売、正人が営業にそれぞれ割り振られ、不満を持っていたと話します。
そうはいうものの大手の企業に勤務する正人には、多分に自負めいたところがありました。
渡した田中の名刺は、正人の飲むビールジョッキの下敷きになります。正人は気付きません。
(正人自身が、他者に無頓着な人間であることの暗示)

「あいつはいい奴だった」と話す正人は、過去にあった出来事を話しました。
どこも大なり小なりあるのかもしれませんが、女子社員を雇う際には「男性社員の結婚相手候補」ということを念頭に採用を決めているそうです。そのため、新入歓迎会は合コンの役目も果たしていました。
ある年、浩樹は新入女子社員・山本礼子と親しくなり、その日のうちに肉体関係を持ちます。
礼子は浩樹と交際する気まんまんですが、浩樹はそのつもりがありませんでした。関係を持っておきながら「(その日のうちに肉体関係を持つなんて、)やだよそんな軽い女」と、正人に言います。
そこで正人と浩樹は一計を案じました。
浩樹と礼子が会う約束をした店に、まず浩樹がドタキャンのメールを入れ、その直後に正人が偶然を装って入ります。
正人は「彼女と会う予定だったが、ドタキャンされた」と言い、礼子と一緒に飲みました。自分は彼女のことが好きなのに、相手はそう思ってなさそうだと気持ちの熱量の差について話します。
礼子は同感に思い、意気投合しました。店の外でキスします。
2~3回会った後に、正人と礼子は肉体関係を持ち、既成事実を作りました。礼子の気持ちはすっかり正人の方に傾きます。
その上で、礼子の思い人が浩樹だったと初めて知ったかのように振る舞い、礼子が黙っていたのが悪いかのように言います。
「浩樹とぎくしゃくしたくないから。正直、顔見るのもきついねん」と礼子に告げます。
こうして正人も浩樹も礼子と別れました。浩樹は正人との飲みの席で、おごります。

…女子が聞いたらドン引きでしょうねと言いながら、正人はまんざらでもない顔をしていました。
礼子は2年ほど後に、年次が1つ下の男性と結婚して寿退社したため、浩樹を殺害するほどの恨みは持っていないと田中に話します。
そう話した後、浩樹のことを思い出したのか、正人は泣き始めました。
(注:「浩樹はいい奴」というのは正人にとってのもので、女性からみると違ったものかもしれない。それが窺い知れるエピソードであり、後の話でも浩樹の身勝手さが出てくる)

〔田中光子の章…雑誌記者・田中の妹〕
初老の精神科医・杉田茂夫は、娘の育児放棄をした田中光子の精神鑑定を行ないます。
光子は杉田医師の机の上にある小さなおもちゃに興味を示すと、「小さい頃はこんなおもちゃを買ってもらうことはなかった」と言いました。
光子は生まれ育った環境について「いつもお腹を空かせてた」と答えます。母・孝子は料理を作ってくれず、ご飯を作ってくれるのは兄だったそうです。
「お兄ちゃんがいなければ、私、生きてないかも」と言って、光子は笑いました。
「もし人生をやりなおしたとしても、私はお兄ちゃんの妹でいたい」と光子は言います。
杉田医師は、育児放棄した光子の育った環境にも、やはり問題があると感じました。
しかしこれ以降、回を重ねるごとに、別の新たな事実が発覚します。

【承】- 愚行録のあらすじ2

〔宮村淳子の章…妻・友季恵の大学時代の知人〕
宮村淳子はまだ独身で、都心でおしゃれなカフェを経営していました。訪れるのは女性客が多く、明るい外観のテラスもあるカフェです。
淳子は文應大学の商学部卒業で、友季恵も同じ大学でした。文應大は「要領がいい子が多い」と、淳子は言います。
文應大学はエスカレーター式の大学でした。
金持ちの子たちは中学・高校時代から大学に上がったいわゆる「内部生」で、それに対して大学から入ってきた人のことを「外部生」と、淳子は呼んでいました。
内部生と外部生には格差のようなものがあり、内部生の持つ華やかさは、外部生にはあまりないそうです。そして両者には交際の接点がありませんでした。
淳子はどちらとも群れずにいましたが、ごくたまに例外が存在します。それが友季恵だと、淳子は言いました。
友季恵は大学から入学した「外部生」でしたが「外部生から昇格した子」でした。友季恵の持つ華やかさ、美しさがそれを許したのです。
燦然とした輝きを持つ内部生は外部生にとって憧れであり、外部生から昇格した友季恵は、外部生からもちやほやされました。「橋渡し的」なものを狙って、友季恵に近づく者もいます。

淳子の口調に棘を感じた田中ですが、淳子自身もそれを自覚していました。
「私はあまり夏原さん(友季恵の旧姓)のことが好きではない」と、淳子は言います。
友季恵と淳子には殆ど接点がありませんでした。
しかしある時、友季恵の方から「英会話スクールどこに通ってるの?」と質問されたそうです。淳子が10歳から中学3年までアメリカにいたと言うと、友季恵は納得し、「宮村さん(淳子のこと)に憧れる」と発言したそうです。
今度一緒にご飯に行こうと誘われた淳子は、友季恵らと共に合コンのような場所に行きました。バイト先の広告代理店で知り合って交際していた尾形孝之(後に登場)も、その席に参加していました。
友季恵は初対面の孝之に親しげに接し、孝之もまんざらでもない顔をします。
そしてその後、孝之は淳子と別れて友季恵と付き合い始めました。つまり淳子は、孝之を奪われたという恨みも持っているわけです。

孝之を奪われたことを知った淳子は、同級生の大友祐一(後に登場)の別荘で開かれたパーティーに乗り込むと、友季恵に平手打ちをしました。しかし友季恵も淳子に平手打ちを返します。淳子は怒って立ち去りました。
「あそこまで女を前面に出してくる感じってすごい」と言った淳子は、「だからあんな死に方をしても納得だ」と付け足します。
「他にも内部生とかにも恨みを買っていそうだし、どこでどんな恨みを買っててもおかしくない」と言いました。
(注:これはあくまで淳子の主観によるものがある。後に出てくる孝之のコメントから、裏付けが取れる)

〔尾形孝之の章…妻・友季恵の大学時代の元交際相手〕
孝之は開口一番、淳子のその後を田中に聞きました。孝之は淳子に未練があるようです。
「女子は基本的に自分の話をしたがる」と言った孝之は、気が強い淳子に対し、友季恵は美人なうえに、人の話を聞いてくれるところがあり、そこに惹かれたと言いました。
「外部生、内部生って表現してませんでした?」と孝之は淳子のことを聞きます。
外部生、内部生というふうに表現しているのは、淳子が妙なコンプレックスを抱いている証だと孝之は指摘しました。
「淳子は、友季恵になりたかったのだ」と孝之は言います。友季恵になれない裏返しで、友季恵のことを悪く言うのだと答えました。
そう言って河原で煙草を吸う孝之は、吸った煙草の吸殻を、差し出した田中の携帯灰皿に捨てます。
(注:「友季恵が淳子に憧れるという発言をした」という淳子の証言は、ここで覆される)
(ネタバレになるが、孝之の煙草の吸殻が後で重要になる)

『週刊テラス』が発売になります。トップを飾ったのは芸能人のキス写真のことでした。
田中の書いた記事は中ほどに掲載されています。
残業していた田中は、田向家の記事を読み、その記事を書いた人と話したいという電話を受けました。
「田向浩樹はあんな人じゃない。浩樹のことを一番よく知っているのは私です。殺した人、知ってます」という女性の声を聞き、田中は取材に行きます。

〔稲村恵美の章…夫・浩樹の大学時代の交際相手〕
田中が向かったのは山がある田舎町でした。そのさびれたレストランで、恵美と待ち合わせます。
恵美は赤ん坊を連れてきていました。5年前に父の会社が倒産し、東京から父の実家へ身を寄せたそうです。
恵美は父の会社の社員と結婚をしたために、父の会社の倒産で夫も失業していました。しかし夫は、この土地の保険会社に再就職が決まったそうです。

恵美と浩樹は大学時代、同じ山岳部のサークルに所属していました。
交際していたのは大学入学当初だけで、浩樹は恵美と別れて、いずみという女性と付き合い始めたそうです。
恵美もすでに別の男性と交際を始めていました。
就職活動の時期になって、浩樹から電話をもらい、恵美は会います。
浩樹はいずみとも別れていました。2年ぶりに会う恵美に「父親を紹介してくれ」と、浩樹は言います。
恵美の父は当時、不動産会社の社長をしていました。要は口利きをしてほしいという意味です。

恵美は浩樹の言葉の意味に、すぐ気付きました。しかし自分を捨てていずみを取った浩樹への復讐、意地悪のつもりで、「私にも彼がいるし。2番目ってことならいいけど(キープという意味)」で肉体関係を持ち、父を紹介します。
恵美が浩樹に父を紹介したのは、「浩樹は利己的だけど一貫性がある」と評価したからでした。数ある選択肢の中から、浩樹は最もよいものを選び出し、そのためには労力を厭わない、その姿勢を見ていると応援したくなると思ったのだそうです。

ところが浩樹は別の会社からも内定をもらいました。
自分のことがあるので、恵美は浩樹に「誰に口を利いてもらったのか」と問い詰めます。
そして同じ大学の教育学部の垣内早苗という存在を、突き止めました。恵美は早苗に会いに行き、「浩樹に利用されているのよ」と忠告します。
そこへ浩樹が現れ、早苗が浩樹に聞きました。「早苗のこと『も』好きだよ」という言葉に、早苗は反応します。
浩樹にはれっきとした言い分がありました。
大学を出て社会に出る就職先は、今後の人生を左右する大事な岐路です。そこを誤ると、今後の人生が狂ってしまいます。
結婚する伴侶や子どもの幸福のためにも、よい会社に就職するのは大事であって、そのための努力ならばなんだってする…と浩樹は言いました。浩樹は、後ろめたさは微塵も感じていません。

【転】- 愚行録のあらすじ3

「今日のこと(恵美と早苗が対決すること)がなかったら、どっちかが将来隣にいたかもね」と言ってのける浩樹に、早苗は泣いて立ち去りました。
「あそこまで開き直れるのは強い」と、恵美は言います。
しかし最終的に浩樹が就職したのは、何のコネもない会社でした。浩樹は裏で手を回してコネを使わなくても、充分に実力を持っていたのです。

話を聞いた田中は、浩樹たちを殺した犯人について質問しました。
恵美は「その人、気付いちゃったんでしょうね。自分はただの容れ物だと。自分だけじゃ埋められないと」と答えます。
(注:恵美は「名ばかりの妻の座におさまっている友季恵が、浩樹に別の女性がいると気付いて殺害し、無理心中を図った」と言いたいのではないか)

赤ん坊を撫でながら「似てきたと思いません?」と言った恵美は、「みんな愚かで空っぽなのに」と付け足しました。
(注:「似てきた」=「浩樹に」。恵美は結婚後も浩樹と関係があり、浩樹の子を産んでいるのではないか。恵美の夫の顔を田中は知るはずもないので、「似てきた」という発言は出てこない。浩樹は友季恵と結婚して家庭を築きながらも、よそにも女を作っていた。
…「自分に節操がない」ということを、恵美は棚上げしている)

〔田中光子の章…雑誌記者・田中の妹〕
衰弱した娘・千尋を見舞いに行った田中は、妹・光子の弁護士・美紗子と会います。
美紗子は精神科の杉田医師から得た証言を元に、確認したいことがあると言います。
田中の両親は18年前に離婚しており、田中と光子は母・孝子に引き取られていました。
母はそのすぐ後に再婚し、今は再婚相手・三橋克行との間に一児・大樹を設けて3人で暮らしています。
(離婚後、田中と光子は別で暮らしていた模様)
実父のその後の消息は、田中も知りませんでした。
美紗子は光子から聞いたとして、田中が特に父から虐待(暴力)を受けていたと聞きます。
母は父とほぼ行きずりの関係で、田中を16歳の時に生みました。光子は「16歳ってまだ子どもでしょ。子どもを育てられるわけ、ないじゃないですか」と母のことを言います。
その後も母は光子を生みました。田中と光子は3つ違いです。

美紗子が聞いているようなので、田中も光子のことを話します。
光子は小学3年生の時から、実の父親に性的虐待を受けていました。兄の田中はそれを知らず、うすうす気づいたのは田中が中3の頃で、光子が小学6年の時です。
その頃まだ田中は父からの暴力に怯えていたので、知ったところで最初は何も言えませんでした。
しかし高校に上がってすぐ、光子の叫び声を聞いて、田中は反抗します。部屋に乗り込んで父親をボコボコに殴り、家から追い出しました。
実父の光子への性的虐待を母が知ったのは、田中が追い出してからでした。
その時にも母は「誘惑したあんたが悪い」と光子を叱ったそうです。

美紗子が知りたがったのは、光子の生んだ娘・千尋の父親は誰かということでした。
田中は「それだけは教えてくれなかった」と答えます。
(注:田中はここで嘘をついている。ラストで明らかに)
その席で田中に電話がありました。電話の主は宮村淳子(友季恵を敵視していた女性)で、「夏原さんに人生を壊された人を思い出した」と言い、田中を閉店後のカフェに呼び出します。
淳子は大学時代の話を田中にします。
そこには、ある人物が出てきました。

〔田中光子の章…雑誌記者・田中の妹〕
それは意外な人物でした。商業科のガイダンスの日づけを間違え、文應大のキャンパスを走る女性・光子がいます。講堂がガランとしているのを見た光子は、友季恵と出会いました。
実は光子は両親の離婚後、恵まれていない自分の環境から這いあがるために、文應大学を受験して入学したのです。
ところが…文應大学には「家柄」を重視する向きがありました。付属から上がってきた子たちが、華やかなムードを醸し出していたのです。
そんな中、大学から入った友季恵は、美しさからすぐに華やかな一団に溶け込みました。光子は友季恵に、憧れを抱きます。
友季恵も時折、光子を食事に誘ってくれました。それが一層、光子を有頂天にさせ、友季恵に惹きつけるものになります。

その友季恵が淳子に平手打ちをされた日にも、光子は別荘のパーティー会場にいました。
その別荘は付属からの生徒・大友祐一のもので、別荘は寝室がいくつもあると言います。
見るかと聞かれた光子は頷き、祐一と寝室に消えました。光子は祐一と関係を持ちます。
しかし祐一と将来の約束をかわすような立場には、なれませんでした。祐一は光子を一夜限りの相手として扱います。

その後も友季恵が光子を呼びます。憧れの存在なので、友季恵が呼ぶと光子は駆け付けました。
その場には必ず、誰か男性がいました。同窓生の松永、柴田…いろんな男性を紹介されます。

(独居房で光子の身体を無数の手が這うシーンがある。ここで再び出てくる。
その手は光子を抱いた男たちのものであり、光子をもてあそんだ者たちの象徴)

友季恵は「すぐに身体を許す光子を斡旋すること」で、付属からあがってきた男性への点数を稼いでいたのです。
付属からの男子大学生たちは家柄もよく、結婚相手として「片親の光子」を選ぶことはありませんでした。
光子は卒業する頃には、誰にも相手にされなくなりました。

…そう話した淳子は、光子のことも「節操がない、野心が強い」と評します。
「あの人は幼児虐待で捕まったりしたそう。私はああはなりたくない」と言った淳子は、光子ならば友季恵を殺しに行ったかもしれないと、犯人として示唆します。
淳子は、光子の兄が目の前にいる雑誌記者の田中だとは、露ほども思いません。田中という苗字は多く、淳子自身が他者にあまり頓着していないのでしょう。
お茶をいれなおすと言い、淳子は閉店後のカフェのキッチンへ移動しました。

田中は淳子が光子を悪く言うのを聞いて、傷つきます。恐らく、大学時代にキャンパスでそんな目に遭ったことも、初めて知ったのでしょう。
「ああはなりたくない」と光子のことを言った淳子に、強い憎しみの念を抱いた田中は、置物で何度も淳子を殴って殺しました。
返り血を浴びたまま、しばらく放心状態でカフェの椅子に座っていた田中は、立ちあがって去る時に、煙草の吸殻を灰皿に足します。
(それまで田中に話を聞かせながら、吸っていたのは淳子。田中は、孝之の吸殻も灰皿に足した)

…淳子の殺人事件のことが、新聞記事に掲載されます。
それと共に、元交際相手の尾形孝之が、警察に任意同行がかけられたことも、載っていました。

【結】- 愚行録のあらすじ4

(さすがに吸殻だけで孝之が逮捕に追いやられることはないと思う。
しかし田中が淳子→孝之の順番で取材に行き、淳子に取材したことも孝之に話しており、孝之が淳子に未練を残したそぶりをするシーンがあった。
もしかしたら今回のことがきっかけで、裏で孝之は淳子に復縁を迫った可能性もあり、その物証が残っていれば、孝之に不利に働くかもしれない…これは深読みしすぎだが)

『週刊テラス』には、その後に田中が取材した記事が載ります。
しかし今回が最後でした。
先週に起きた、高松の姉妹殺害事件の取材に回ってくれと、田中は頼まれます。好きなことをやらせたのだから、もう充分だろうと言われました。
その田中の元に、弁護士の美紗子から電話があり、田中は病院へ駆け付けます。
妹・光子の娘・千尋は助かりませんでした。亡くなります。

〔田中光子の章…雑誌記者・田中の妹〕
「ずっと一緒にいてくれる人と、赤ちゃんが欲しかった。でもあの子(千尋)、笑ってくれないの。抱きしめたいのに、身体が動かない」
精神鑑定の席に座り、光子が語ります。
光子が望んだのは、ごく平凡な家庭を築くということでした。しかしそれは叶いませんでした。
シングルマザーで赤ん坊を育てることに疲れた頃、光子は街で友季恵を見かけます。
化粧もせずぼさぼさの光子が店の外に立っているのとは対照的に、友季恵はおしゃれをして小学生くらいの娘の手を引き、高級デパート店で買い物をしていました。
十数年ぶりの再会です。
娘の手を引いてデパートから出てきた友季恵の視線が、一瞬、光子の顔を捉えました。
光子は微笑みかけますが、友季恵は何も見なかったように、そのまま目をそらします。無視されたのです。
大学時代に男を仲介されながらも、光子が友季恵に従い続けたのは「憧れ」があったからでした。孝之が元交際相手の淳子のことを「淳子は友季恵になりたかったのだ」のだと言っていましたが、光子も友季恵になりたかったのです。

無視された光子は声もかけられず、友季恵の後を尾行します。
すると友季恵は郊外の住宅街で、一軒家に住んでいました。家に帰宅していた夫が出迎えます。
光子が得られなかった、あきらめなければならかった「好きな人と子ども」の幸福な家庭が、そこにはありました。
それを見た瞬間、光子の仲で何かがぷつっと音を立てて切れました。

台所のドアが開いており、包丁もすぐに見つかります。
光子は1階のリビングにいた友季恵の夫・浩樹を殺害し、2階の寝室で友季恵と娘を殺害しました。その後、血を落とすためにシャワーを浴びます。

…精神科の椅子に座りながら光子は告白しましたが、それは杉田医師が電話で中座した時のことなので、誰も上の述懐を聞いていません。
「何か話してたかな」と言いながら入ってきた杉田医師は、光子の娘・千尋が亡くなったことを光子に告げました。
それを聞いた光子は、短く笑います。
(殺人犯である光子にとっては、娘の死など瑣末なこと)

〔三橋孝子の章…光子の実母〕
光子の弁護士・美紗子が車に乗り、都心から離れたところに再婚して住む母・三橋孝子に会いに行きます。
孝子は克行という男と結婚し、現在は大樹という息子と3人暮らしです。
光子から事情を聞いている美紗子は、「光子さんにはお兄さんがいてよかった。光子さんにはお兄さんがいたから生きていられたのだ」と言い、光子の娘・千尋の死を報告しました。
「あの子たちの時のような失敗(の結婚)をしたくないから、前を向いて生きようと思った」と答えた孝子は、意外な事実を美紗子にもたらします。
光子は母を嫌っていました(実父の性的虐待に気づいてくれないどころか、知ると「誘惑したあんたが悪い」と罵った母も、光子は憎んでいた。「16歳で兄を産んだ」発言の時には、蔑みの表情を浮かべていた)。
ところが光子が妊娠をした時、その母のところへ頼ってきたそうです。
母は助けの手を拒みました。
光子は「内緒で産める産婦人科はないか」と母に聞き、それだけは母も応じます。

ところで弁護士の美紗子は、光子の娘・千尋の父親を「実父」と思い込んでいました。
(大学時代にあった出来事は、雑誌記者の田中しか聞いていない。光子は精神科医には、父親とあったことしか話していない。そのために誤解したのだと思う…のだが、出産時期の差異から、美紗子の誤解も相当おかしなことではある)
母・孝子は、弁護士・美紗子の誤解を否定します…。

〔田中光子の章…雑誌記者・田中の妹〕
光子に面会に来た田中は、うなだれていました。対照的に、光子は楽しそうに話します。
「私、秘密って大好き。誰にも言えない秘密っていい」と言った光子は、含みを持たせた笑みで、田中に笑いかけます。
(「秘密」とは「千尋が兄と自分の間の子」ということ。さらには兄妹の近親相姦も込めている)
「私、あの子に手を上げたこと1回もないよ(暴力はない)」と告げた光子は「ありがとうね、お兄ちゃん。お兄ちゃんだけだよ、私の味方。大好きなのは、お兄ちゃんだけ」と、うなだれた田中に声をかけます。

(この発言も意味深長。
田中は、妹の光子が田向一家殺人事件の犯人であることを、知っていた可能性もあり。
その場合には、田中が会社にかけあって追跡取材をしたがった動機が「犯人に心当たりがある者を見つけ、潰す」という意図がこめられたものになる。
事実、光子を挙げた淳子を田中は殺害し、口封じをした)

〔田中武志の章〕
雨の日に帰宅の途に就く田中は、バスに乗り座席に座っています。今日もバスは大勢の乗客が乗っています。
横に立つ女性が妊婦だと気付くと、田中は「次、降りるんで」と言って妊婦に席を譲りました。
(注:冒頭での田中は「放心状態で窓外の景色を眺めていたため、老女が立っていることに気付かなかった」、そのため、指摘されるまで老女が立っていることに気付かなかった。
初老男性の指摘で気付いて席を譲った田中は、少しの意地悪も手伝って、後味の悪い思いをさせるために障害者の振りをした。
しかしそれは田中の一面にすぎない。
別の面ではきちんと常識をわきまえ、妊婦に席を譲る気遣いを持っていることを示している)

妊婦の代わりに車中に立った田中は、つり革に手を置きながら、見るともなく周囲を見ます。
バスの乗客には笑顔を浮かべる者が多いなか、田中だけは暗鬱とした表情でした。
世の中にはこんなに人がいて、みんな幸福そうなのに、田中だけは暗い顔のままです。
それは、背負うもの(殺人の罪、妹の光子、それらを隠しておかねばならないこと)が重すぎるからです…。
(タイトル『愚行録』。
登場人物はみんな大なり小なり、自分に都合のよい面だけを見せている。その最たる存在が宮村淳子。
一番常識的だと思われた田中ですら、妹のためには殺人を厭わないという面を見せる。
誰もが愚行を犯す存在であることを、示している)

(映画の煽り文句『3度の衝撃』について。
1.真相を言い当てた宮村淳子を、田中が殺害したこと
2.田向一家殺人事件の殺人犯が、田中の妹・光子であったこと
3.光子の娘・千尋の父が田中であり、近親相姦の関係だったこと)

みんなの感想

ライターの感想

救いがないラスト、見終わった後のなんとも厭な感じ…。
勝手ながら、章立てをさせていただいた。映画には章はない。ご容赦を。
原作との違い。原作では田向夫妻には2人の子がいた(息子もいる)。
原作では、田中は確たる意思を持って取材対象に当たり、光子が犯人だと疑う者を殺害している(映画ではぼやーっとしか描かれない)。
原作では「人間は愚か」ということをラストで光子が言うのだが、映画では劇の中盤にて夫・浩樹と関係のあった女性・恵美が発する。
…のっけから、障害者の振りをしてバスを降りる田中。ここからガツンと「悪意」にやられてしまう。
さらには恵美が「似て来たと思いません?」この発言、怖い~~。浩樹と関係が続いていたことを示唆。
話が動き始めるのは中盤以降。なのでぼうっとしていると「あれ? え? ちょっと待って」になる。
特に文應大に光子がいたというのが、けっこう衝撃的だった(パーティーの席)。
映画では田中と光子の関係の深さがどの程度なのかが判らず、そこがもやもや。でも間違いなく、あと味の悪い良品。
  • kumiko loveさんの感想

    終わり方が?になる、エーーーな感じです

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